腎臓に発生するがんは、主に「腎細胞がん」と「腎うがん」があります。腎臓の中の尿の通り路から発生する「腎うがん」は膀胱がんや尿管がんの親戚で、「腎細胞がん」とは大きく性質が異なります。広い意味では腎臓に発生するがん全てを「腎がん」と呼びますが、通常「腎がん」という場合、「腎うがん」は含まず、腎実質から発生する「腎細胞がん」のみを指しています。
腎細胞がん(腎がん)は、顕微鏡で見た結果を元に、更に淡明細胞型腎がん、乳頭状腎がん、嫌色素性腎がん、転座型腎がん、集合管がん、透析関連腎がんなどに分類されます。転移がない腎がんには通常手術が行われます。小さな腎がんに対しては、がんとその周囲の正常部分少しを切除する腎部分切除術を行いますが、位置や大きさによっては片側の腎臓をすべてとる根治的腎摘出術を行います。
山形大学では開腹手術だけでなく、腎部分切除術についてはロボット手術、根治的腎摘出術については腹腔鏡手術も多く行っています。どのような手術を行うかは、腎臓の機能を含めた患者さんの状態、大きさ、位置などのがんの状態によっても異なります。主治医と相談のうえで決定することになります。
転移がある腎がんには免疫治療や分子標的薬治療等の薬物治療、手術治療、放射線治療、緩和治療などを単独、もしくは組み合わせながら治療します。治療方法は多岐にわたり、個々に適切な治療も異なるため、主治医と相談したうえで決定することになります。
より確実な診断(見逃しを少なくする)のために、超音波ガイド下で経直腸的16ヵ所生検(通常は10ヵ所生検)を行っています。その際にはしっかりと麻酔(仙骨ブロック)をすることで、できるだけ痛みの少ない検査を行っています。超音波ガイド下での生検で癌の検出が困難と考えられる場合には、Biojetシステムを用いて画像と超音波画像を同期させ、前立腺生検を行っています。
手術では手術支援ロボット"ダ・ヴィンチ"を用いて、精度が高く安全性の高い手術を行っています。緑内障や腹部手術の既往があり、ロボット手術が困難な場合には、創の小さな小切開手術を行っています。手術後で状態が安定している患者さんに対しては、連携パスシステムを活用し、かかりつけ医や近隣の泌尿器科医の先生方にフォローアップをお願いしています。
また、放射線療法の適応のある患者さんには放射線科と協力して重粒子線治療を行っております。山形大学医学部東日本重粒子センターでは、重粒子線治療の適応がない患者さんには強度変調放射線治療(IMRT)という周囲正常組織への影響が少なく副作用の少ない治療を行っています。転移が認められる場合は、ホルモン療法、化学療法、放射線療法を併用して治療を行っています。
山形大学医学部東日本重粒子センター表在性(早期)のがんについては、低侵襲の経尿道的内視鏡的切除を行っています(皮膚は切らないで済みます)。浸潤性(進行)がん(筋層にがんが浸潤している)に対しては、手術による根治性(完全に治すこと)を重視して、術前化学療法(dd-MVAC療法,GC療法)を、その後に膀胱全摘除術を施行することもあります。
尿路変向術(膀胱摘出後の尿路再建)には、回腸を利用した回腸導管造設術や尿管を直接皮膚に固定する尿管皮膚瘻造設術、回腸を利用した自然排尿型代用膀胱造設術などがあり、症例ごとに最も適切な術式を選んで施行しています。膀胱全摘術が困難な患者さんに対しては、放射線と化学療法を組み合わせた膀胱温存療法を行っています。転移がある場合や再発した場合は化学療法、がん免疫療法、分子標的薬による治療を行っています。
腎盂・尿管がんに対しては腎臓、尿管をすべて取り除く腎尿管全摘術が標準術式です。当院では多くの症例で腹腔鏡下に行っています。従来の開腹手術では側腹部から下腹部にかけて30cmの皮膚切開が必要でしたが、下腹部の約7cmの目立たない傷で済むことがほとんどです。リンパ節転移の可能性がある場合には腎尿管全摘術に加えて、リンパ節を十分に切除して根治性(完全に治す)を高めるようにしています。
腎盂・尿管がんに対しては腎臓、尿管をすべて取り除く腎尿管全摘術が標準術式です。当院では多くの症例で腹腔鏡下に行っています。従来の開腹手術では側腹部から下腹部にかけて30cmの皮膚切開が必要でしたが、下腹部の約7cmの目立たない傷で済むことがほとんどです。
青壮年に好発し、最初の治療が非常に大切ながんです。正確な病期診断の後に抗がん剤による化学療法、手術療法、ときに放射線療法を組み合わせて、完全治癒を図っています。難治性の症例には新しい抗がん剤を用いた化学療法や自己末梢血幹細胞移植を併用した高用量化学療法を治療戦略に組み入れています。
副腎は左右の腎臓の上に位置する約2~3cmの三角形の臓器で、人が生きるために必要なホルモンを分泌するとても大切な臓器です。
副腎にできる腫瘍には①ホルモンを産生する良性腫瘍、②ホルモンを産生しない良性腫瘍、③悪性腫瘍などがあります。
①の場合、副腎からのホルモンが過剰になることで、高血圧や高脂血症、糖尿病などの様々な病気が二次的に引き起こされるようになります。
これらは薬などである程度治療することもできますが、充分に改善されない場合は手術の適応になります。従来は小さな腫瘍でも15~20cmほど腹部を切開して手術を行なっていましたが、最近では腹腔鏡手術が標準治療となりました。
腹腔鏡手術は開腹手術に比べて創が小さく術後の回復が早いというメリットがあります。当科では副腎腫瘍の診断、内分泌管理(術前術後)、治療(開腹手術、腹腔鏡手術など)を含めて習熟したスタッフが多く、ほとんどの症例で腹腔鏡手術により治療しています。
悪性腫瘍とは、元々正常だった1つの細胞の中にある遺伝子が傷つき、遺伝子異常をおこしたことにより、細胞が過剰に増えたり、転移したりする性質をもつようになったもののことを言います。悪性腫瘍の中に「がん」や「肉腫」があります。つまり、「がん」や「肉腫」を構成する細胞は、「がん」や「肉腫」以外を構成する正常な全身の細胞とは異なる、異常な遺伝子を持っています。がんゲノム医療とは、「がん」や「肉腫」の遺伝子を調べ、患者さん個々に、より適切な治療を提供する医療のことを言います。
現在、標準治療(※)がない、標準治療終了後、標準治療終了が見込まれる悪性腫瘍の患者さんを対象に、保険診療で「がん」や「肉腫」の多数の遺伝子を調べる「遺伝子パネル検査」が行えます。山形大学医学部附属病院は「がんゲノム医療拠点病院」として、「遺伝子パネル検査」を行い、患者さんに情報を提供することで、がんゲノム医療の一端を担っています。
※標準治療:標準治療とは、化学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者さんに行われることが推奨される治療を言います。(国立がん研究センターホームページより)
山形大学泌尿器科でも、前立腺がん、腎がん、腎うがん、尿管がん、膀胱がん、精巣がん、陰茎がん、副腎がん、後腹膜に発生した肉腫などの泌尿器科領域の悪性腫瘍について、腫瘍内科と連携し、「がんゲノム医療」を提供しております。これらのがんに罹患した患者さんで、「遺伝子パネル検査」に興味を持たれた方は、主治医の先生に相談してみてください。
泌尿器科の先生方も、遺伝子パネル検査に興味のある患者さんがおりましたらご紹介ください。
また、ご不明点などございましたら、山形大学泌尿器科まで、ご連絡ください。
腎臓は、体にたまった毒素、ミネラル、酸、水などを調節した上で尿として排出する、生命の維持に欠かせない臓器です。そのほかにも血液の産生をうながすホルモンや血圧の調節に関わるホルモンをだしたり、ビタミンDの活性化に関わったりなど、さまざまな機能を有しています。この腎臓の機能が何らかの原因により低下している状態を慢性腎臓病といい、慢性腎臓病が進行しほとんどの腎臓の機能が失われてしまった状態を慢性腎不全といいます。
慢性腎不全に至ってしまった腎臓の機能を回復させることは困難であり、替わりとなる治療をうけなければなりません。この代わりとなる治療は腎代替療法と呼ばれ、腎代替療法には透析療法と腎移植の2通りの治療があります。腎移植は、他の方から提供して頂いた腎臓を移植することで、一度失ってしまった腎臓の機能を取り戻すことができる唯一の治療になります。
現在、ほかの動物の腎臓やiPS細胞などの再生医療により作製した腎臓では腎移植を成功させることはできず、人から頂いた腎臓でしか腎移植を行うことはできません。
腎臓を提供して下さる方により、腎移植は生体腎移植と献腎移植とにわけられます。生体腎移植は、健康な親族の方から2個あるうちの片方の腎臓を提供して頂き移植するもので、献腎移植は、亡くなられた方から提供して頂いた腎臓を移植するものです。
以前に比べ腎移植は進歩しており、70歳前後の高齢の方や糖尿病を抱えた方でも腎移植を受けることは可能となっています。生体腎移植においては、提供者(ドナー)とレシピエントとの血液型が異なる場合や白血球の血液型であるHLAが異なる場合でも、良好な成績が得られるようになっています。
生体腎移植の提供者(ドナー)となられる方には、提供後もこれまでと変わらない日常生活と変わらない余生を送って頂くことが望まれるため、より厳しい条件が課せられています。また、倫理的に問題のない腎移植を行うための条件も設けられています。
レシピエントの手術は全身麻酔で行うことになります。提供して頂いた腎臓は、自分自身のもともとの腎臓が位置する場所ではなく、左右どちらかの下腹部に移植します。腎臓を移植する際につなぐ部位は3か所です。腎臓の動脈と自分の動脈を、腎臓の静脈と自分の静脈を、そして腎臓から尿が流れ出る尿管と自分の膀胱をそれぞれつなぎます。
腎援隊ホームページより抜粋生体腎移植ドナーの手術も、全身麻酔で行います。当科では全例、腹腔鏡下に腎臓の摘出術を施行しており、開放手術に比べ傷が小さく手術後の回復が早いのが特徴です。。
当科では1992年に腎移植を開始し、2004年まで22例を施行しております。2005年から2008年までの4年間、一時的に休止しておりましたが2009年より再開し、再開して以降は2022年現在までに100例以上を施行しています。現在は山形県内唯一の腎移植実施施設として、年間10例前後を施行しています。
これまでに若い方は19歳から、高齢の方は78歳まで当科で腎移植を施行しており、血液型不適合腎移植や、一度移植した腎臓の機能が廃絶してしまった方にもう一度腎移植をおこなう二次移植も実施しています。透析を経ずに腎移植をおこなう先行的腎移植についても積極的に取り組んでおり、現在では全体の約24%を先行的腎移植が占めています。
2009年以降に施行した98例中、生体腎移植は91例、献腎移植は7例であり、2021年現在の生存率は95%、生着率は92%となっています。2009年以降に実施した生体腎移植ドナー手術はすべて腹腔鏡下に行っています。ドナーとなられた方で腎代替療法を必要とする末期腎不全に至った方はいらっしゃいません。
当科では、県内唯一の生体腎移植および献腎移植実施施設として、腎移植外来を開設しています。生体腎移植を希望している方、献腎移植登録を希望している方のみならず、腎移植の希望の有無に関わらず一度腎移植についての詳しい話を聞いてみたい方や、他の医療施設で腎移植をうけ当科での定期受診を希望される方まで、広く対応しています。
腎移植外来の初診は、火曜日と木曜日の午後に受け付けています。かかりつけの医療機関より当院の地域連携センターを通じて予約をお取り下さい。受診に際しましては、かかりつけの医療機関にて作成して頂いた紹介状を持参して頂きますようお願いします。
山形大学医学部附属病院地域連携センター山形県内の庄内地方にお住いの方々がより腎移植をうけやすくなるよう、当科で腎移植を担当している医師が月に1回、鶴岡市立荘内病院で腎移植の専門外来を開設しています。
当院腎移植外来同様、生体腎移植を希望している方、献腎移植登録を希望している方のみならず、腎移植の希望の有無に関わらず一度腎移植についての詳しい話を聞いてみたい方や、他の医療施設で腎移植をうけ定期受診を希望される方まで、広く対応しています。受診をご希望される際には、下記をご参照の上、予約をお取りください。
鶴岡市立荘内病院ホームページ当科は山形県内唯一の献腎移植実施施設として、献腎移植の新規登録をおこなっています。献腎移植登録をするためには、献腎移植実施施設への受診が義務となっています。
当科を受診された後に腎移植を受けることができる状態かどうかを評価し、登録の手続きを進めていきます。登録についてのより詳しい情報を知りたい方は、日本臓器移植ネットワークのホームページをご覧ください。
献腎移植登録を済ませた方には、年1回登録している献腎移植実施施設を受診することが義務付けられています。この受診をしない場合、献腎移植登録を更新することができず、献腎移植が受けられなくなってしまいます。予約した日時に、1年以内にうけた検診の結果と、かかりつけ医療機関で作成された紹介状を持って、受診して下さい。
日本臓器移植ネットワーク前立腺は男性の膀胱の下部に存在するクルミ大(正常では約15g)の臓器で、精液の一部を作る男性生殖器官の一つです。前立腺の中心を尿道が貫いており、前立腺が腫大すると尿道が圧迫変形し尿の勢いが悪くなります。
前立腺肥大症の治療法は、大きく薬物療法と手術療法、それ以外の治療法に分けられます。薬物療法は、前立腺の尿道への圧迫を緩めるα1ブロッカーやPDE5(ホスホジエステラーゼ5)阻害剤、腫大した前立腺を縮小させるアンチアンドロゲン薬と5α還元酵素阻害薬、植物製剤、漢方薬等があります。
また尿意切迫感を伴う場合には、抗コリン薬が用いられることがあります。手術療法には、下腹部を切開する方法(開腹手術)、尿道から内視鏡を挿入して前立腺を切除する方法(TUR-P)、レーザー照射により前立腺腺腫を凝固壊死あるいは蒸散させる方法(HoLAP,PVPなど)と、レーザーを用いて前立腺を摘出する方法(HoLEP)などがあります。
その他合併症や全身状態から手術療法が困難な患者さんに対する低侵襲治療(体に負担の少ない治療)として、尿道内に形状記憶合金で出来たステントを留置する治療や、1日に数回患者さん自身で尿道内に管を入れて尿を出す間歇的自己導尿、尿道カテーテルを留置し定期的に交換する方法等があります。
神経因性膀胱は排尿を調節する大脳、脊髄、末梢神経の障害によって膀胱機能に異常をきたす病気です。頻尿、尿意切迫感、切迫性尿失禁などの症状を伴う過活動膀胱のタイプと、尿意が減弱して(尿がたまったかわからない)、排尿困難などの症状を伴う低活動膀胱のタイプがあります。
低活動膀胱に対しては薬物療法のほかに患者さん自身で1日数回導尿する間欠的自己導尿指導を行います。 間欠的自己導尿法ができない場合には尿道カテーテルを留置しますが、尿路感染の可能性があります。 その他、手術療法として小児の二分脊椎症例に対して膀胱拡大術(膀胱の容量を大きくする手術)を行うことがあります。
女性の尿失禁には大きく分けて、せき、くしゃみ、笑う、走るなどの動作で、腹圧がかかると少しずつ尿がもれてしまう腹圧性尿失禁と、尿意を感じてからトイレに行くまで間に合わずにもらしてしまうタイプの切迫性尿失禁の2つのタイプがあります。
腹圧性尿失禁の治療は、膀胱や尿道を支える骨盤底筋群を鍛える骨盤底筋訓練を行い、改善の思わしくない場合に手術療法を行います。骨盤底筋訓練は、当院外来看護師が指導致します。腹圧性尿失禁に対する手術としてメッシュを用いて尿道を吊り上げ支えるTVT手術やTOT手術があります。男性の腹圧性尿失禁に対して、平成24年より人工括約筋植え込み術が健康保険適応となりました。
人工括約筋は尿道の周りにシリコン製のチューブを巻き付けることにより尿道を圧迫することで尿失禁を治療するものです。前立腺切除術に伴う腹圧性尿失禁や尿道または膀胱頸部が開いてしまう(内因性尿道括約筋不全(ISD))が原因で起こる尿失禁の治療に用いられます。
過活動膀胱とは、急に起こる我慢できない強い尿意(尿意切迫感)があり、何度もトイレに行かなければならない状態(頻尿)です。時折、尿失禁を伴うこともあります。膀胱自体や排尿に関連する神経の異常により、本人の意思とは関係なく膀胱が異常に収縮することで生じます。治療はまず行動療法や薬物療法を行います。
しかし、薬物療法でも効果が得られない場合や、副作用によって内服の継続が困難な場合もあります。このような方には、当院では、ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法を行います。膀胱鏡を用いて、ボツリヌス毒素を膀胱壁に直接注入し、異常な膀胱収縮を抑えることができます。
骨盤の中にある膀胱、子宮、直腸などの臓器は、骨盤の底にある筋肉や筋膜、じん帯など「骨盤底筋群」により支えられ、こうした組織が加齢や出産などでゆるんで骨盤内臓器の位置が下にずれ、骨盤内臓器が下に下がって腟の中に落ち込み、ちょうど腟を裏返すような感じで外に脱出するのが、骨盤臓器脱です。会陰部に何か触れる、歩行時や排便時などに不快感があるといった症状が多く、排尿障害、排便障害、尿失禁を伴うことも多い疾患です。
骨盤臓器脱があっても、腟の中程まで臓器が落ち込んでいる程度で、とくに症状がなければ治療を行う必要はありませんが、尿もれなどの症状があれば治療が必要です。基本的にはペッサリーの装着か手術かを選ぶことになります。ペッサリーによる治療法は、腟の中にリング状やドーナツ型のペッサリーを挿入し、下から子宮を支えて位置を矯正する方法です。
これは、当院産婦人科に依頼して行っています。ペッサリーによる治療でも症状の改善が思わしくない場合は、従来は、膀胱や子宮の周りの組織を強く縫い合わせて補強する手術方法(腟壁縫縮術)がとられていました。しかし、再発率が高いため、メッシュにより子宮脱や膀胱瘤の位置を戻して補強する腟壁形成術が行われるようになって来ました。この手術をTVM(Tension-free Vaginal Mesh)手術と呼び、当院でも平成20年2月より行っております。
メッシュを用いた腟壁形成術は、術後の痛みや体への負担が少なく再発率も低い(約10%)手術方法です。また、最近では腹腔鏡にて修復する腹腔鏡下仙骨腟固定術(LSC)も行われるようになり、当院では産婦人科にて施行いただいております。このように、当院では、産婦人科と協力し患者さんの病状に合わせた治療法を選択しております。
過活動膀胱とは、急に起こる我慢できない強い尿意(尿意切迫感)があり、何度もトイレに行かなければならない状態(頻尿)です。時折、尿失禁を伴うこともあります。膀胱自体や排尿に関連する神経の異常により、本人の意思とは関係なく膀胱が異常に収縮することで生じます。治療はまず行動療法や薬物療法を行います。
しかし、薬物療法でも効果が得られない場合や、副作用によって内服の継続が困難な場合もあります。このような方には、当院では、ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法を行います。膀胱鏡を用いて、ボツリヌス毒素を膀胱壁に直接注入し、異常な膀胱収縮を抑えることができます。
間質性膀胱炎(interstitial cystitis; IC)は、頻尿と膀胱痛を主な症状とする慢性進行性疾患で、原因は明確ではないものの、膀胱粘膜の透過性の亢進、知覚神経の刺激が膀胱の知覚過敏を引き起こし、次第に膀胱壁の伸びやすさが低下することで起こると考えられています。
症状は頻尿と尿がたまった時の膀胱部や尿道口などの痛みで、刺すような痛みや歩いても響く強い痛みから、違和感や重苦しさまで、症状はさまざまです。30代以降の女性に多く、アレルギー性疾患や尿路感染症の病歴がしばしばみられます。難治性の頻尿の場合に、間質性膀胱炎の可能性があります。膀胱痛は、あまりははっきりしないことがあります。
診断では、膀胱容量がどれくらい小さくなっているかがひとつの判断材料になります。水圧拡張(麻酔下で膀胱を一定の内圧まで水で拡張し、水を抜いた時に特徴的な膀胱粘膜の点状出血、五月雨状出血、亀裂が起きるかをみる)は、診断として重要なだけでなく治療効果も期待できます。最近では、ジメチルスルホキシド(DMSO)膀胱内注入療法も保険適応となり、2週ごとに外来で注入治療を行います。
手術は、患者さんへの負担の軽減を目指して開放手術から内視鏡・腹腔鏡手術へ発展し、そして現在はより安全かつ精密さを追求したロボット支援手術へと進化し続けています。 ダヴィンチ・システム(Intuitive Surgical社製da Vinci Surgical System)は、腹腔鏡手術を支援するロボットであり、当院には2012年5月にdaVinci Sが導入され、現在はdaVinci Siに更新となり使用しております。
ロボット手術といっても、機械が自動的に手術を行うわけではありません。患者さんのお腹にあけた小さな傷穴から手術器具を取り付けたロボットアームと内視鏡を挿入し、医師がサージョンコンソールと呼ばれる患者さんからは離れた操縦席で内視鏡画像を見ながらそれらを操作をすることで手術を行います。ロボット支援手術では、用途に合わせた様々な多関節の鉗子を用いることで複雑で細やかな手術操作が可能であり、三次元の高解像度カメラにより体内の構造物を詳細に観察できて外部モニターからも術野を共有することができるため、後身の指導や教育にも大きく貢献しています。
ロボット支援手術は、前立腺癌のロボット支援前立腺全摘術(RARP)が国内ではじめに保険診療として認められてその有効性や安全性が評価されたことにより、現在では多くの外科手術に適応が広がっています。泌尿器科においては小径腎癌に対するロボット支援腎部分切除術(RAPN)、膀胱癌に対するロボット支援根治的膀胱全摘除術(RARC)、腎盂尿管移行部狭窄に対するロボット支援腎盂形成術(RAPP)、女性の膀胱瘤に対するロボット支援仙骨膣固定術(RASC)が2021年12月の段階でロボット支援下に行われています。
当科では現在RARP、RAPN、RARC、RAPPの4種類のロボット支援手術を積極的に行っています。 ロボット支援前立腺全摘除術(RARP)は、2021年までに約580例程度施行してきており、開放手術と比較して出血量が少なく、当科での輸血率は1%程度に抑えらえておりま す。ロボットの特性を生かして、癌を取りきる根治性を保ちつつ尿禁制(尿失禁がない状態)や、性機能などの機能温存に関して開放手術よりも優れた成績が期待できます。
RARPの場合は手術台の頭側を水平から25°下に傾けた頭低位で手術を行う必要があるため、眼圧の上がりやすい緑内障の患者さんは視力障害のリスクがあるため、これまでは開放手術をすすめておりましたが、最近では下腹部に手術の傷跡のない患者さんにおいては、後腹膜アプローチとして頭低位を緩められるようにすることで、ロボット支援手術も選択できるように対応しております。
ロボット支援腎部分切除術(RAPN)は、当科において4cmまでの小径腎腫瘍に対する腫瘍切除の第一選択となっており、150例程度施行してきております。条件がよければ4cm以上の大きさの腫瘍にも施行できることもあります。一般的にRAPNは開放手術に比べて腫瘍の切除および切除した部位の縫合止血を正確かつ迅速に行うことが可能であり、癌の根治性を保ちつつ腎機能の温存が期待できます。
ただし、小径であっても腫瘍の位置や併存疾患(心疾患や脳卒中などで抗凝固療法がやめられないなど)によっては腹腔鏡下腎摘出術を選択したり、術前腎機能が悪い場合には腎を冷却して腎機能低下を最小限にできる開放腎部分切除術を選択するなど、それぞれの患者さんに合わせた治療方針も提示するようにしています。
ロボット支援根治的膀胱全摘除術(RARC)は、筋層浸潤膀胱癌に対する治療であり、開放手術と比較して出血量が少なく周術期合併症も少ないことが報告されています。当科では2020年から開始したばかりで2021年までに10例とまだ症例数は少ないもののRARPと共通部分が多いことから安全に施行され、今後さらに開放手術からロボット支援手術への移行がすすむと予想されます。
尿を貯めておく膀胱が摘出されてしまうため尿路変更が必要になりますが、当科では腸管を利用した回腸導管(ストーマ型)と代用膀胱(自排尿型)を患者さんの希望や病状を考慮したうえでいずれかを選択してもらうようにしています。現段階での尿路変更は、膀胱摘出後に小切開をおいて体腔外で腸管の処理を行ったのち、尿路の再建をするために再びロボット支援下に行う方法で行っております。
ロボット支援腎盂形成術(RAPP)は、腎盂尿管移行部狭窄が原因で発症した水腎症の治療法であり、2021年までに7例施行しております。それ以前には腹腔鏡手術で多数例を施行してきましたが、難易度の高かった狭窄部位を切除した後の腎盂と尿管の縫合手技が、ロボット鉗子の特性によりスムースに行えるようになったことで、手術成功率のさらなる向上や手術時間の短縮につながるものと考えております。
泌尿器科では現在いくつかの疾患に対して治験を行っております。詳細は山形大学医学部附属病院臨床管理センターのホームページをご参照ください。
山形大学医学部附属病院臨床管理不妊症の原因はおおよそ半数で男性側の因子が関与していると言われています。不妊でお困りの患者さんに対して、原因を調べるための診察、検査、投薬治療を行っています。また精索静脈瘤の関与が疑われる場合には手術で治療を行いますが、再発率が最も低いとされる顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術を積極的に行っております。精巣内精子採取術(Testicular Sperm Extraction: TESE)については関連施設と連携して治療をご案内します。